美術館では、椅子を見てしまう。

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美術館に行くと、椅子を見てしまう。

展示室の端に置いてある椅子。壁の近くに置かれている椅子。絵をまっすぐ見られる場所に、ちゃんと置いてある椅子。

あ、ここに座りたい、と思う。

もちろん作品を見に来ている。でも、椅子がいい場所にあると、その空間が好きになることもある。座ると絵が違って見える。絵を見ているというより、絵と同じ部屋にいる感じ。

美術館の椅子は、たまにすごく素敵だ。

これ、座っていいんですか、と思うような椅子が、普通に置いてあることがある。少し緊張するような椅子にも、美術館では座れる。

有名な椅子に出会うこともある。

ウェグナーのThe Chairみたいな静かな椅子も好きだし、天童木工の椅子を見かけることもある。イームズやヤコブセンの椅子も、わりとよく見る。

ここにこの椅子ね、と思うのは楽しい。

前に、どこかの美術館でガウディの椅子が置いてあった。

バルセロナで座ったことのある椅子だった。初めてではないのに、見つけた時はやっぱり嬉しかった。

あ、これ、また座れる、と思った。

好きな椅子は、何回座っても嬉しい。

椅子に座ると、自分も、その場所の一部になったように感じることがある。歩いている時は、作品の前を通り過ぎている人だったのに、座ると、床や壁や光や絵と一緒に、そこに置かれた感じがする。

たぶん、椅子があるから。

ただ、そんなことを思いながら座る時もあれば、単純に疲れている時もある。

美術館は、思ったより歩く。階段もあるし、部屋もいくつもあるし、戻ったりもする。途中から足が重くなってくる。

そんな時に椅子があると、もう動きたくない。

ありがとう。

座った場所から絵がきれいに見えたりすると、なおさら動けない。もうここでいい、と思う。ここから見えるものだけ見ていたい。

美術館の椅子は、休んでも、休まなくてもいい気がする。

きれいなものを見に行って、たくさん歩いて、少し疲れて、いい椅子に座る。そこで、さっきまで見ていたものや、まだ見ていない部屋のこともぼんやり思う。

何かをちゃんと見ているようで、もうあまり見ていない時もある。

それでも、その時間が好きだ。

美術館に行っているのに、椅子も見る。そこに座ると、その場所の記憶が変わることも、きっとある。

たくさん歩いたあとに、いい場所に椅子がある。

それだけで、もうだいぶうれしい。

text — homeflow編集部